君のいない異変

 一向に景色の変わらない通路ふたり並んで歩く。を
 異変を見つけたら引き返すこと。それが帰るためのルール。
 そう、この通路には何かしら異変がある。そして俺はその異変に気付いている。気付いて、しまったのだ。
「……光忠」
 隣を歩いていた号ちゃんが不意に立ち止まって呼びかける。繋いでいた手が離れる、ぎりぎりの位置で、俺も足止める。
「どうしたの、号ちゃん」
 次こそ異変を見つけないと。だから行こうと手を引くが、号ちゃんは動かない。
「光忠、もういい」
「もういいって、進まないと出られないだろ」
「お前だってわかってるんだろ」
 あまりにも的確な一言に息が止まる。俺の反応を見た号ちゃんは静かに目を伏せた。
「……すまん」
「ごう、ちゃ…」
 ぐいっと二歩分の距離を引き戻され、勢いよく身体を振られる。号ちゃんの、後ろ側に。
「それでも光忠、お前は先に行け」
 放り投げられた体がすれ違う瞬間、そんなことを囁かれる。
 嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!
 号ちゃんが隣にいたこと。そのこと自体が異変だったなんて、そんなもの認めない!
「号ちゃん!」
 放り投げられた体が地面を滑る。顔を上げた先には誰もいない。
「号ちゃん」
 異変を見つけたら引き返すこと。それが帰るためのルール。
 裏を返せば異変を無視し続ければここに居続けることができる。君と一緒に笑い続けることができる。
 覚束ない足取りでついた先には1番出口の看板。
 体中の力が抜けて座り込む。

 君がいないという異変を抱えた俺は、きっとこの先の出口にたどり着けない。

号福で最近流行りの出口ネタ
福ちゃんは自分から終わらせられないんじゃないかなぁ…

2024/01/06
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