「この花束が部屋にあったんだけど、誰からのものかわかる?」
その問いに彼が、どんな顔をしていたか。
「おはなならふくちゃんがとくいなのだぞ!」
「へえ、サプライズなんて福島さんらしくないね」
水を向けられた彼が、何と返していたのか。
日常に溶かしてしまったそのやり取りがきっと始まり。
消えた悲鳴を拾い上げる
「あれ、伽羅ちゃん?」
角から出てきた見知った相手に思わず声をかける。向こうも気付いたのか、光忠、と応える。
「何か急ぎの用はあるか?」
「特にないけど……え、何かあったの?」
「……あんた向きの相談を持ちかけられた」
ついてこいと言った大倶利伽羅は燭台切の答えに心なしか安堵したように見える。余程厄介なことに巻き込まれたのだろうか。行き先は彼の部屋だった。そこに相談者がいるのだろう。すっと戸を開ける。
「あ、おかえ、り…」
中にいたのは福島光忠だった。大倶利伽羅が戻った気配に振り仰ぎ、後ろにいた燭台切に気付いたのだろう。言葉尻が弱くなる。燭台切も燭台切で逃げを打とうとするが、予想していたのだろう、一瞬早く腕を掴まれ部屋に引きずり込まれる。
「わっ!?……ちょっと伽羅ちゃん!?」
「言っただろう。あんた向きの相談だ、と」
「伽羅ちゃんだって答えられないこともないだろう?」
「……これは、あんたが聞くべき相談だ」
そう言って視線を未だ固まったままの福島に向ける。そこでようやく気を取り直したのか、福島が慌てた様子で口を開く。
「適任者って、光忠のことだったのかい!?」
「そうだが?」
「え、いや、うん。ねえ、他の誰かじゃダメ、かな……ちょっとこれは、うん、光忠には、話せない、かなぁ…」
泳ぐ視線。煮え切らない口調。言われた言葉に燭台切はカチンときた。何だそれは。他の誰かには話せて自分には話せない話なのか。何だ、それは。
すっと戸を閉めて、燭台切は福島の向かいに座る。
「僕には話せない相談事って、何かな?」
卓袱台に腕を乗せてにっこりと笑顔を作る。兄だ何だと主張するなら、まずは身内を頼れと言うのだ。