いじわるごっこ
号ちゃんくんのところから戻って部屋に入って来た福島に足払いをかける。もちろん転ぶようなことはなく、多少たたらを踏んだ程度で終わる。
「おかえり」
「何するんの、実休」
「なんだろうね」
ため息をひとつ吐いて福島は手に持っていた花を飾る。その後ろ姿になんだか不思議な気持ちが湧き上がる。今度はそっと近付いてエプロンの留め具を外す。
「わ、おい!何するんだよ!」
「さあ?なんだろうね?」
僕にもこれが、わからないんだ。
卓の上には色とりどりの花が並んでいる。
福島はそれをいくつか手に取って、上機嫌にまとめていく。あれは確か、主の分だ。
そぅっと手を伸ばして、福島が用意していたリボンをいくつか隠す。主が好きだと言っていた色のリボン。
「……ん?あれ…?」
福島がリボンの束を探る。やっぱりこれは使おうとしていたものだったみたいだ。
福島の視界から外れた隙に、先程隠したリボンを戻す。
「出したはずなんだけどなぁ……あれ?」
先程はなかったリボンがあることに気付いた福島はそのままじとりと僕を睨む。
「……実休、これいじったでしょ」
「……どうかな」
「何で隠したの?」
「何でだろうね」
どうやらかなり怒っているみたいだ。アレンジメントの時はいじわるをしないようにしよう。
「福島さんに、何か不満でもあるの?」
燭台切はすっぱりと斬り込んできた。その問いに首を傾げる。
「不満なんてないよ」
「じゃあ何で福島さんに子供みたいなちょっかいかけるんだい?」
福島さん困ってたよ。燭台切はそう言うが、自分でも上手く言葉にできない気持ちなので困ってしまう。
「上手く言えないのだけれど、福島を見てると時々、いじわるしたくなるんだ」
「いじわる?」
繰り返される言葉に頷く。
「困らせてやりたいとか、そういうものじゃなくて、ちょっとだけつつきたいとか、そういうものなんだ」
「話してる最中に頬抓られたり、部屋に入るなり足掛けられたって聞いたけど」
「でも、そのくらいじゃ福島は壊れないだろう?」
こんな事で怪我をさせたくはない。そのくらいの加減はする。
と、いうか。さっきから気になっていたけれど。
「福島ってお前にそういう相談するの?」
「え?まあ生活上の困ったこととかをね。僕のが先輩だし」
「そう…」
そうなの。福島、燭台切には相談するの。僕には全然してくれないのに。
ああ、なんだか…
「実休さん?」
燭台切の呼びかけに視線を合わせる。
「なんだか、とても福島にいじわるがしたくなってきた」
「……そう」
僕の言葉に燭台切はなんだか遠い目をしながら程々にね、と返した。
理由はわからないけど福島が日本号や他の誰かと話してたりした後いじわるしたくなる実休ってかわいいな、と
2023/08/27