「……旅行?」
「それって去年粟田口の彼らが行ったみたいなやつ?」
「そうそう、それ!」
「燭台切のおじいさまががんばってかちとったのだ!」
「まあ、流石に古備前の方々も一緒になってしまったけど、現地では別行動だって約束だしね」
「そう…」
「じゃあみんな楽しんでおいでよ」
「いや、あなたたちも来るんだよ」
「え?いいのかい?」
「俺たちみたいな新参者が?」
「あのなぁ、親父殿、刀剣男士だって人の身だろう?息抜きのひとつもなきゃ草臥れちまうだろう」
「確かにそういうのって長く働いてるみんなには必要だけど、俺たちまだそういうのはいいんじゃないか?」
「……もしかしてだけど、福島さん、日本号いないから行かないとか思ってない?」
「え、何でそこで号ちゃんが出てくるの?」
「うわ、日本号関係ないかなりガチ目の遠慮だった」
「号ちゃんはいたら嬉しいけど、いないならまあ仕方ないよね。日ノ本一の槍は忙しいんだよ」
「大概飲んだくれてるけどなぁ」
「それに、これはもうひとつ、お二方に現世慣れしてもらうためという理由もあるしね」
「「現世慣れ…」」
「お二方は焼失の逸話を持っている分、その先の世のことは疎いだろう?そこを埋めるために、今回の旅行は設定されているんだ」
「なるほど…」
「それは確かにそうだね」
「……福ちゃんと実休のおじいさまは、りょこう、いやなのか?」
「え?」
「そうだね。おふたりとも、なにかりゆうをもとめているようにみえるよ」
「そういうつもりはないのだけれど…」
「やっぱり俺たちが行ってもいいのかってなぁ…」
「……僕は、福島さんが来てからずっと旅行の計画を立ててたんだよ」
「光忠!?」
「去年は大きな戦いがあった後で、前線の主戦力だった粟田口が優先された。それは当然の流れだし、いいんだ。それに待ってる間に実休さんも増えた。でもだから今年こそはって思ってたんだ」
「光忠…」
「燭台切…」
「だから!あなたたちにはこの旅行に参加する義務がある!」
「おい、流れ変わったぞ」
「あなたたちがどんなに嫌がろうと!僕は!いや、僕たちは全力であなたたちを旅行に連れて行く!!」
「ははは、山姥切いがいはきわめているし、にがさないよ」
「こうだいといえど、あまくみないでもらいたい!」
「いや……俺たちだって別に行きたくないわけではないよ?」
「でも、それが僕らみたいなものに分相応かがわからないんだ」
「あなたたちが我ら長船派の祖、光忠が一振りってだけで分相応だと思うけれど?」
「身分は確かにそうだけど…」
「ほら、他にも希望出したとこあったんじゃない?」
「あったけど薙ぎ倒したよ」
「光忠!?」
「薙ぎ倒したって、物騒だね」
「ああごめん、言い方を間違えたよ。全員黙らせてきた」
「やっぱり物騒なんだよなぁ…」
「僕と小豆くんへの食事のリクエスト権。山姥切くんへの書類代筆依頼。景光二振りと大般若くんへの内番交代要請」
「……お前にとってそこまでするものなの?」
「するものだよ」
「そう…」
「そうそう、さっき福ちゃんは自分に慰労は必要かって言ったが、極論あんたの慰労の要不要は関係ないんだ」
「え?」
「俺たちの慰労に、あんたたちが必要。だから何が何でも旅行の権利を勝ち取ったし、力尽くでもあんたらを連れてく。そういうことさ」
「わたしたちのきゅうかには、あなたたちがひつようなんだ。わかってくれるかい?」
「……嫌とは言っていないよ」
「ただ、僕らが行く理由がわからなかっただけだよ」
「じゃあ、決まりだね」
「あ、でも内番の交代は俺たちもやるからね!」
「一緒に行く以上そこは、ね」
「さーて!そうと決まれば旅行の準備だ!」
「まずはよろず屋街で現世風の服や鞄を探さないとね」
「ぼくもてつだうぞ!」
「僕はお店のリサーチかな」
「わたしはすいーつをさがそうか」
「光忠」
「なあに、あなたも光忠だけどね」
「ありがとう」
「…………」
「みんな、どうしたの?」
「「「「「「あはははははは!!!」」」」」」
「ふたりとも、ありがとうはまだ早いよ!」
「そうそう、それは旅行の終わりに言うものだよ」
「さーて、よろず屋街ならあの店がいいかね」
「旅行鞄は小竜が見立てなよ」
「お、任せて。使いやすくてスマートなのを見つけたげる」
「「「「「「ほら、ふたりとも早く!」」」」」」
「うん」「ああ!」

close
横書き 縦書き