渡り廊下を歩いてきた相手に軽く手をあげる。すると相手は一目散にこちらに突っ込んでくるものだから、苦笑する。
「兄弟水いらずの晩はどうだった?」
「楽しかったよ!光忠の意外な一面も見れたし」
「ちょっと、そこ広げないでくれるかな、兄さん」
すかさず割って入る燭台切に声を上げて笑う。自分の知らないところで折り合いをつけたのか、二振りの間の空気は以前よりも柔らかい。
と、その中にいると思っていた者がいないことに気づく。
「兄貴はどうした?」
「実休ならもう出立したよ」
「主くん専用の政府直通ゲートで出かけるのを見送ってから来たんだ」
そうかと応える日本号に燭台切りはじゃあまたねと手を振って厨の方へと向かう。今日は当番から外されているのに手伝いに行ったのだろう。光忠は真面目だよねえ。隣の福島が呟く。それからはたと何かを思いついた顔で日本号を呼ぶ。
「どうした?」
「後で時間は取れるかい?今回のことで号ちゃんには迷惑をかけちゃったから、お礼とお詫びをしたくて」
「気にすんな。大したことしてねえよ」
「そうかい?ううん……でもそれじゃ俺の気が済まないから花だけでも贈らせてくれないか?」
「……まあ、そんくらいなら」
「ありがとう」
言葉とは裏腹に、物言いたげな顔をする福島に、促してやる。
「号ちゃん、諦めないで頑張ると、こんなすごいことが起きるんだね」
奇跡みたいだ、と呟く言葉に眉を寄せる。こんなもの奇跡でも何でもない。実休に起きていたことは審神者や政府の連中が何とかしたはずだ。そんなことは少し考えればわかるはず。それなのに福島は叶わないことが当然だと思い込んでいた。そういえば審神者に呼び出された時も絶対悪い話だと決めつけていた。
「ねえ号ちゃん」
「何だよ」
「俺、号ちゃんと一緒にいること、諦めなくていいんだよね…?」
「ずっとそう言ってんだろうが」
コツンと頭を叩くと小さく笑った。
「号ちゃん、大好きだよ」
パッと明るい笑みを浮かべる。その明るさにああ、本当に憂いは晴れたのだなと安心した。
勝手に空回りながら自分から追い詰められていくイメージが福ちゃんにはあります。
そんな福ちゃんに起きた問題を解決するなら、日本号の側と光忠兄弟の側の両方からアプローチが必要だったらいいなと思ったらこんな話になりました。
号福になってしまったのは友人同士だと感情の交換ってしないだろうなと。
蛇足ですが、
・燭台切が表立って兄と呼ぶ条件は何か
・福島が(日本号以外で)全力を尽くすのは何か
・焼けて記憶が怪しい実休にそれでも残っているものは何か
・「長船派の祖、光忠が一振り」としての矜持
あたりについて考えながら書いていました。
おまけで次ページに後代たちのこの件についての会話があります。