いじわるなんで

「どうしてそれを僕に聞くんだい?」
 深くため息を吐いて燭台切が言う。
「だって福島の話ならお前が一番だろう?」
 薬研くんも宗三もへし切も。相談しても福島のことはよくわからないと返されてしまった。
「それなら日本号さんの方が詳しいよ」
「……彼に聞くのは、なんだろう。少し嫌だな」
 燭台切の言う通り日本号に聞けばわかるかもしれない。けれどそれを考えた時にものすごく胸の辺りが気持ち悪くなった。これは福島が彼に懐くのを見た時になるのとよく似ている。
 燭台切はその時を思い出して眉を寄せる僕に、ぱちくりとゆっくり瞬きをした。
「何で日本号さんは嫌なの?」
「……そこまでわかってたら困ってないよ」
「あれ、困ってるの?」
 燭台切の問いに頷く。福島のお友達だから仲良くした方がいいのはわかるのに、どうしても胸の中が気持ち悪くて、福島にいじわるをしてしまう。
 そう説明すると燭台切はふうんと相槌を打った。
「じゃあ、最近は僕といる時も気分が悪くなるの?」
 図星を突かれて視線が泳ぐ。燭台切は兄弟で、福島のことは関係なく僕自身が仲良くしたい相手なのに、どうしても時々福島にいじわるをしたい気持ちが抑えられない。
「……別に、いつもじゃないよ」
「そうだね。大体が冬とか春とか、あなたが来る前の季節の話をしている時だね」
 僕が来るよりずっと前に福島は本丸に来ていて、その間にあったことを話していると、どうしても胸の中が気持ち悪くなる。これはたぶんよくないことなのに。
「よかったじゃない。この前はうまく説明できないことが今は少しだけど言えるようになった。進歩だよ」
 進歩と言われても困ってしまう。そこがわかったって、困りごとは何も解決しない。
「ねえ、福島は何で何も言わないんだと思う?」
「福島さんが言うには、嫌じゃないから、だって」
「え?」
 嫌じゃないってどういうことだろう。困惑していると燭台切がくすくす笑いだす。
「何で笑ってるんだい?」
「だって、仕掛けているあなたの方が困ってるなんて、僕からすれば面白いことだもの」
「……燭台切はどこまでわかってるの?」
「おおよそのことはわかってるんじゃないかな」
 僕がわからない僕のことを、燭台切はわかっている。なんだか納得できない。じっと見つめると燭台切は困ったように笑う。
「仕方ないじゃない。あなたたちの両方が僕に相談してくるんだもの。その話を整理したら何となくわかっちゃうよ」
「……福島のこともわかるの?」
「僕の見立てでは福島さんは半分よりちょっと先までわかってるんじゃないかな。でも自分で決められることは決めたみたい。中身は教えられないけどね」
「……そう」
 福島はわかっている。わかっていて、僕のいじわるに何も言わない。福島は何で…
「ねえ実休さん」
 呼ばれてそちらへ意識を向ける。
「実休さんの気分が悪くなる理由は僕や日本号さんなのに、どうして福島さんにいじわるしたくなるの?」
「え?」
「だって、僕たちが嫌なら僕たちに何かする方が筋が通ってない?少なくとも実休さんのいじわるって、福島さんにとっては理不尽なことだよ」
「理不尽…」
「福島さんのことは福島さんにしかわからないから、実休さんはまずこのあたりを考えてみなよ」
 じゃあ頑張って。そう言って燭台切はさっさと行ってしまった。

続いてしまった無自覚の実福。
悩める実休と巻き込まれた燭台切。
燭台切先輩が優しいターンでした。

2023/08/29
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