雰囲気は大事だよな。
 自分の思いつきに大般若はうんうんと頷いた。
 今度の旅行は片田舎のコテージを借りて過ごすことになった。と言うのも最近来た方の光忠二振りに食べたいものを聞いたら声を揃えて「光忠の作ったものならなんでも」というリクエストが飛んできたものだから古株の方の光忠が「じゃあもう僕が料理できる施設にしちゃおう」と照れながら返し、山姥切が手頃な施設を手配したというわけだ。なお、具体的な品名はなかったためバーベキューになる予定だ。焼きマシュマロ用のマシュマロを小豆が大量購入していたのは余談だ。
 手配、準備片付け、調理、デザート。手を出さないわけではないが自分が担当できるものがないことにここで大般若は気付く。(準備片付けはアウトドア慣れした小竜の担当だ)
 と、そこで冒頭の思い付きに戻る。思い立ったら即行動。よろず屋街へと出向いてそれに向いたものを必要なだけ購入する。
 旅行まで後三日。荷物の調整にも十分な余裕がある。

 ことり。ことり。
 場所を調整しながらキャンドルを並べていく。
「思ったのだけど、それ、倒れて引火とかしないよね?」
 燭台切が思いつきのように尋ねる。大般若は少し考えた後、ニヤリと笑った。
「え、何その顔。君まで鶴さんみたいな真似しなくていいんだけど」
「ああ、大丈夫大丈。心配なら親父殿、一度電気を消してみてくれ」
 このくらいなら平気だろうと頼むと、燭台切は訝しげに部屋の電気を消した。薄闇に包まれた室内で、大般若はポケットの中で装置のボタンを押す。
 すると床に並べたキャンドルが一斉にほんのりと光る。
「ああ、それ、本物じゃないのか」
「あんたたちの前に本物の火並べるのもどうかと思ってね」
「そう……気遣ってくれてありがとう」
「ま、単純に一斉に点けたり消したりできて都合いいって理由もある」
「ははは、そうやってわざわざ台無しにしなくてもいいのに」
「ははは、そんなつもりもないさ。あんたの見立てで配置はどう思う?」
 尋ねると燭台切はぐるりと部屋を見回して頷く。
「いいんじゃないかな。やっぱり君、センスあるよね」
「お褒めに預かり光栄だねえ」
 キャンドルの明かりを消すと室内の明かりが点く。
「でも実は、あの二振り、小竜くんの火おこしに興味津々だったよ」
「昼間選んできた土産物もアロマキャンドルだったしなあ」
 顔を見合わせて笑う。
 さて、彼がここに来たということは中でできる支度は粗方片付いたということだろう。大般若も腰を上げる。
「まだまだ楽しい旅行になりそうだね」
「あんたが楽しいならそれだけで成功だろう」
 この旅行を一番に楽しむべきは燭台切だ。彼がもてなしたいならもてなせばいいし、心のままに動けばいい。
 何せこれは、彼が勝ち取ったものなのだから。

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