
旅行の記録は残すように。全員最低一枚ずつは写真に納めてくるように。
旅行前にカメラの貸し出し申請をした時、審神者からそんな念押しをされたと山姥切が呆れていたことを、ふと思い出す。
「はい、ありがとう」
手渡されたカメラを受け取る。一体彼はどんな瞬間を切り取ったのだろうかと気になって思わず画面を操作してしまう。
「何を見ているの?」
彼の興味はまだカメラにあるようで、横から覗き込んでくる。
「とったしゃしんはこうやってみかえせるんだよ」
いくつかの写真が画面に表示される。向日葵畑を走る謙信。花畑から飛び出した福島の頭。喫茶店で食べたスイーツの写真。肉の串に照れた顔で齧り付く山姥切。みんなの分の調理をする燭台切。煙に咽せる大般若と、腹を抱えて笑っている小竜。離れたところで夜景を眺める実休。
そしてなんとなく暗くボケけた、小豆と後ろの騒ぎ。
ああ、これが彼の残したかった瞬間か。胸が暖かくなる。
「あれ…」
と、ポツリと彼が声を漏らす。どうかしたのかと顔を向けると、とても困ったような、悲しそうな顔で写真を見ていた。
「どうかしたのかい?」
「もっと、綺麗だったんだけれど…」
ぼやけてしまってみんなのようにうまく撮れていないね。しょんぼりと肩を落とす姿に小豆は声に出さずに笑う。
「だいじょうぶ。ピントをあわせるのがうまくいかなかっただけだから。やりかたをおしえるからもういちどとってみよう」
あのとりのかざりをうつしてみて。肩を叩いてカメラを渡す。
「……こう、かな」
しばらく四苦八苦しながら撮った写真はきちんと写っていて、満足そうに彼が頷く。
「よし、もう一度撮ってみよう」
呟いて彼はまた小豆から数歩離れて皆が騒いでいる姿にレンズを向ける。確かにあれは楽しそうだから記録に残したくなる。邪魔をしないよう小豆は少しだけ下がった。その時、
「あ」
驚きと寂しさが混ざった残念そうな声を彼があげる。それから構えていたカメラを下げて困ったように小豆を見る。
「どうしたんだい?」
「うん、実はさっきの場所から動かないでほしかったんだ」
彼の言葉に首を傾げる。小豆がいては彼らが隠れてしまうのではないか。
「僕に、こんなに楽しい思い出をくれた大切なひとたちを写真に残しておきたかったんだ。その中には君も入っているから動いてしまうと困るんだ」
その言葉に小豆は微笑んだ。それから、元の位置からもう少しだけ写真に収まりが良さそうな場所へ移動する。
「ここなら、わたしもはいるかな」
「うん。さっきより綺麗に収まるよ」
「それをとったらみんなのところにもどって、ぜんいんうつったしゃしんをとろう」
小豆が言うと彼は首を傾げる。
「でも、誰かが撮らないといけないんじゃないかな」
「だいじょうぶ。小竜はそういうのが得意だし、もしかしたらきょうだいがそのためのどうぐをもってきているから」
「そう。それは楽しみだね」
うっすらと笑って彼はカメラを構える。写りを確かめて満足そうに頷く。
「では、いこう」
彼が頷いたのを見てから皆に声をかける。
「みんな、実休のちちうえがみんなでしゃしんをとりたいそうだよ」