
「祖たちは、楽しんでくれただろうか」
ウッドデッキで二振り並んでコーヒーを飲みながら、山姥切が呟く。小竜はコーヒーに息を吹きかけるのを一旦止め、こちらを見る。
「君、そんなことを考えていたのかい?」
「当たり前だろう。君の方こそ、考えなかったのか?」
コーヒーを冷ます作業に戻った小竜は少しおいてからでもねぇと呟く。
「俺たちがどうしようがさ、楽しむ時は楽しんじゃうひとたちじゃない?そもそも多分、俺たちがこうして旅行を企画したってだけで福島さんたちも十分楽しんでくれたと思うよ」
「そこも心配だけれど、俺が気になるのは燭台切の祖だよ」
望んだのが半ば強引に連れ出して希望を言わせた福島と実休だとはいえ、結局彼には食事の準備をすべてさせてしまった。彼自身は余暇を楽しむ時間があったのだろうか。ついそんなことを考えてしまう。
すると隣の小竜がははっと笑う。そこまで的外れなことだろうか。そう考えてつい睨め付ける。
「ごめんごめん。でもそれこそ心配ないよ」
コーヒーを台に置いて小竜は言う。
「あのね、実は今回君にコテージの相談が行く前に、燭台切さんからキャンプできないかって相談されてたんだよ」
「え?」
「で、色々相談した結果準備とか片付けとか火の管理とか大変だし、コテージでバーベキューの方がみんながゆっくりできるんじゃないかって結論になってね」
「それで俺に話が来たのか」
「そういうこと。だから燭台切さんが楽しんでないなんて、きっとないよ。俺たちが火起こししてる間鼻歌歌いながら野菜切って串作ってたって、大般若も言ってたし」
言われて思い返す。そういえば旅行中燭台切は普段よりどこか子供っぽかった。
「もしかして燭台切の祖も、かなり浮かれてたのか?」
「だいぶ浮かれてたんじゃない?これは俺も最近気付いたんだけど、燭台切さんって機嫌いいとどこまでも甘やかそうとしてくるんだよね」
元々世話好きってものあるけどね。言って小竜はコーヒーを手に取って口にする。お互い何も言わず、明るくなる稜線を眺める。
「そういう君はどうなんだい?」
「え?」
「ちゃんと楽しめたかい?」
問いかけに瞬きをひとつ。そして微笑む。
「もちろん楽しんださ。福島や実休の祖はもちろんだけれど、他の皆の普段は見られない一面を見られてよかったよ。小竜こそどうだい?」
「俺も同じだよ。君と予想外にこうして話せたことも含めて、ね」
ぱちりとウインクをしてみせるものだから今度はこちらが笑ってしまう。
「じゃあこの旅行の評価は、間違いなく優だね」
「はは、監査官殿のお墨付きか」
「元、だよ。今は皆と同じく主の刀だ」
「そうだったね」
冗談を言って笑い合いながら、朝日が昇るのを眺める。
ああ、とても良い時間だった。