No.389
いつだって君のことを窺っている。
物の頃のような抗えない終わりなんてものがなくたって、君の機嫌ひとつでおしまいなんてものは呆気なくくる。
「号ちゃん、これでどうかな?」
声をかけた背中。振り向いて、こちらを見る。温度のない、藤色の目。どうやらまた俺はしくじったようだ。
「……いいんじゃねぇか」
今日は馬当番だ。寝わらを馬房の外に出してできた山に問題はないはずだ。それなら何が不味かったのか。
「光忠」
感情の凪いだ顔で呼ばれ、思わず背筋が伸びる。
「そっち終わったんなら、先に休んでろ」
「え、でも号ちゃんまだやるんだろ?なら俺も…」
言い募るが視線ひとつで黙らせられる。渋々引き下がって、離れたところで仕事をする彼を眺める。
「……号ちゃん、怒ってるよな…」
膝を抱えて呟いたら思った以上にダメージを受けた。考えるのは先ほどと同じこと。
何が悪かったのか。何をしくじったのか。
彼が存外気難しい性質であることを本丸に顕現してから初めて知った。正則のところに一緒にいた頃はそんなこと欠片も感じたことなくて、とても驚いた。
「……刀剣男士としてそうあるべきだから、なのかな…」
それとも黒田の家に行ってから変わったのか。どちらにしろ、俺には知り得ない時間が彼を変えた。
そして多分、悲しいけれど変わってしまった彼は俺の何かを煩わしく思っている。それが何か、言ってくれたら直せるのだが彼はそこについては語らない。
「……諦めるしか、ないんだろうな」
唇を噛み締める。君とまた親しく付き合うなんて、この身には過分な願いだったのだろう。
「光忠」
彼の呼ぶ声が聞こえる。あの頃と同じ音。それでも違う温度の声で。
5「見たことのない表情でわたしを呼ぶの」#記憶より深く刻まれた愛
物の頃のような抗えない終わりなんてものがなくたって、君の機嫌ひとつでおしまいなんてものは呆気なくくる。
「号ちゃん、これでどうかな?」
声をかけた背中。振り向いて、こちらを見る。温度のない、藤色の目。どうやらまた俺はしくじったようだ。
「……いいんじゃねぇか」
今日は馬当番だ。寝わらを馬房の外に出してできた山に問題はないはずだ。それなら何が不味かったのか。
「光忠」
感情の凪いだ顔で呼ばれ、思わず背筋が伸びる。
「そっち終わったんなら、先に休んでろ」
「え、でも号ちゃんまだやるんだろ?なら俺も…」
言い募るが視線ひとつで黙らせられる。渋々引き下がって、離れたところで仕事をする彼を眺める。
「……号ちゃん、怒ってるよな…」
膝を抱えて呟いたら思った以上にダメージを受けた。考えるのは先ほどと同じこと。
何が悪かったのか。何をしくじったのか。
彼が存外気難しい性質であることを本丸に顕現してから初めて知った。正則のところに一緒にいた頃はそんなこと欠片も感じたことなくて、とても驚いた。
「……刀剣男士としてそうあるべきだから、なのかな…」
それとも黒田の家に行ってから変わったのか。どちらにしろ、俺には知り得ない時間が彼を変えた。
そして多分、悲しいけれど変わってしまった彼は俺の何かを煩わしく思っている。それが何か、言ってくれたら直せるのだが彼はそこについては語らない。
「……諦めるしか、ないんだろうな」
唇を噛み締める。君とまた親しく付き合うなんて、この身には過分な願いだったのだろう。
「光忠」
彼の呼ぶ声が聞こえる。あの頃と同じ音。それでも違う温度の声で。
5「見たことのない表情でわたしを呼ぶの」#記憶より深く刻まれた愛