🗐 気まぐれ日記

主に更新履歴。その他管理人の日々の徒然

タグ「記憶より深く刻まれた愛」を含む投稿6件]

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 いつだって君のことを窺っている。
 物の頃のような抗えない終わりなんてものがなくたって、君の機嫌ひとつでおしまいなんてものは呆気なくくる。
「号ちゃん、これでどうかな?」
 声をかけた背中。振り向いて、こちらを見る。温度のない、藤色の目。どうやらまた俺はしくじったようだ。
「……いいんじゃねぇか」
 今日は馬当番だ。寝わらを馬房の外に出してできた山に問題はないはずだ。それなら何が不味かったのか。
「光忠」
 感情の凪いだ顔で呼ばれ、思わず背筋が伸びる。
「そっち終わったんなら、先に休んでろ」
「え、でも号ちゃんまだやるんだろ?なら俺も…」
 言い募るが視線ひとつで黙らせられる。渋々引き下がって、離れたところで仕事をする彼を眺める。
「……号ちゃん、怒ってるよな…」
 膝を抱えて呟いたら思った以上にダメージを受けた。考えるのは先ほどと同じこと。
 何が悪かったのか。何をしくじったのか。
 彼が存外気難しい性質であることを本丸に顕現してから初めて知った。正則のところに一緒にいた頃はそんなこと欠片も感じたことなくて、とても驚いた。
「……刀剣男士としてそうあるべきだから、なのかな…」
 それとも黒田の家に行ってから変わったのか。どちらにしろ、俺には知り得ない時間が彼を変えた。
 そして多分、悲しいけれど変わってしまった彼は俺の何かを煩わしく思っている。それが何か、言ってくれたら直せるのだが彼はそこについては語らない。
「……諦めるしか、ないんだろうな」
 唇を噛み締める。君とまた親しく付き合うなんて、この身には過分な願いだったのだろう。
「光忠」
 彼の呼ぶ声が聞こえる。あの頃と同じ音。それでも違う温度の声で。

5「見たことのない表情でわたしを呼ぶの」#記憶より深く刻まれた愛
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 本当はずっと好きだった、なんて。
 そんなことを言ったら君はどんな顔をするだろう。
 どう思うかはわからないけど、きっと驚きはするんだろう。
 だって、あの頃の俺は、君への恋心をひた隠しにしていた。
 だってそうだろう?
 尊き方の元にもあった、槍にして正三位の位持ち。そんな君がいくら好きだ愛してるだと言ったとて、受け入れられるものじゃない。
 だって俺は、福島正則の佩刀で、備前長船の祖光忠が一振りといえど、号も与えられていない身なのだ。
 君と並んで釣り合いなんて取れるわけがない。
 だから君を突っぱねながら、心の中で謝り続けた。
 せめて号があれば同じ家のモノ同士だし、少しは近付けるのにな。早く正則が号をくれないかな、なんて。それでも俺のことは変わらず光忠と呼んでくれないかな、なんて。
 そんなことを思いながら君とはあくまで友として過ごした。
 願いが叶ったのは、君も正則もいなくなった後だけれど。
 炎の中で悔いたこと。
 こうして二度と会えなくなるなら、もっと君に好きだと伝えればよかった。
 君は惜しまず俺に愛を伝えてくれていたのだから、もっとそれに応えればよかった。
 もし、二度目があるのなら、今度はきっと違えやしない。
 君を好きだと、愛しているのだと、全身全霊で君に伝えよう。

4「きみがいる景色を、この目に焼き付ける」#記憶より深く刻まれた愛
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「……こんな別れも、あるのかよ」
「所詮俺たちは物でしかないからね……こんな別れだって、あるんだよ」
「……おい光忠、お前やけに物わかりがいいじゃねぇか。お前にとって俺はその程度のもんなのかよ!なあ!」
「……そんなわけは、ないよ。だって君は日の本一の槍で、俺たち福島の家の誇りだ。正則以外の誰かの手に渡るなんて考えたくもなかった」
「なら…!」
「それでもやっぱり俺たちは物なんだ。物でしか、ないんだ。人の世界の都合に振り回されるものなんだ」
「……そうかよ」
「大丈夫。君ならどこへ行っても上手くやれる。日の本一の、愛されるべき槍なんだから」
「……まあ、そうだな。うまくやってやるよ」
「そう、君に俺は必要ない」
「……何もそこまで言うことじゃねぇだろ」
「ねえ、もしも君が許してくれるなら、俺のことを、友として心に残してくれないか?」
「そんなもん、当たり前だろ」
「……そう、よかった」
「……お前こそ、忘れんなよ」
「忘れないよ……忘れられるわけ、ないじゃないか」
「……そうか……なあ、光忠」
「何だい?」
「誓いを立てるぞ。この先いつか再び出会うことがあれば、その時はまた友として俺たちは共に在ろう」
「わかった、では」
「「我ら、幾星霜を経ようとも、再び見える時は友としてあると誓おう」」
「……それじゃあ、お別れだね。ほら、そろそろ行かないと」
「最後まで素っ気ねぇ奴だな。まあ、それでこそお前だが」
「さようなら。新しい土地でも健やかで」
「お前こそ達者でな。あのどうしようもない主人を助けてやれ」
「言われなくても」

「……結局、涙のひとつも見せなかったな」

(よかった君の門出に無様を晒さなくて、本当によかった)

((我が最愛の友よ))
((それでも俺は愛しているから))
((いつかまた、お前/君に会えるといい))

3「永遠の誓いさえ忘れて」#記憶より深く刻まれた愛
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「号ちゃん」
 甘やかな声が後をついて回る。
 なんだかんだあってこいつの教育係は俺になった。
 そこは構わない。この本丸にこいつの縁者は少ないし、そのうちの有力だった方がおかしくなった。それだけのことだ。
 それにこれは元々狙っていた立場だ。
 本丸での人の身の生活や刀剣男士としての在り方をひとつひとつ教える。多分、適度に距離を置きつつも、話自体はきちんと聞いていて、自分でやって失敗したりしながら俺に向かってすごいんだなとか言うのだろうと思っていた。そこからこちらを見直させ、今度こそ口説き落としてやるつもりだった。
 それがどうだ。
「号ちゃん、これどうするの?」
 こてんと首を傾げて尋ねる。媚びるようなその仕草に眉を寄せる。
 何だその態度は。お前はこの俺に媚びるようなやつじゃなかったはずだ。何でそんな、俺に甘えるような態度を取るんだ。
「……こうして、こうだ」
「わ、待って!ええとこうして……こう?」
 辿々しい手つきで教えた通りにやるのを見守る。できた、と得意げに見せてくるのはどこか子どもじみていて、どうしても記憶の中の光忠とは馴染まない。
「号ちゃんは何でもできるんだねぇ」
 すごいなぁと目を輝かせるのがこそばゆい。そういえば燭台切にも似たような目を向けていて、誰にでも向けるものなのかと白けた気持ちになる。
「……大したことじゃねぇ。お前もやってりゃそのうちできるようになるだろ」
 それでも、そんなことを言いながら頭をくしゃくしゃと掻き回す。静止の言葉と裏腹に満更でもなく楽しげに笑う姿はやはり子供じみている。

2「書き換えられた日常」#記憶より深く刻まれた愛
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「福島なり福ちゃんなり、好きに呼んでよ」
 現れたそいつに動揺を隠せなかった。
 かつて数年だけ同じ主の元にあった相手。
 日の本一と称される己に、人間のような恋と執着を抱かせた相手。
 そのくせ、こちらのことなど一切振り向きもしなかった相手。
 だからこそ、どうにかこちらを向かせようと躍起になった相手。
 そしてそれが叶う前に別れることになった、そんな相手。
 だからこれは悪い夢だ。そうでなければ、頭がどうにかなってしまいそうだ。
 気障な物言い。洒落た装い。それはいい。前からそんなものだった。薔薇なんてものを携えているのは離れた後に生じた物語だろう。俺の酒と同じだ。
 俺が受け入れられないのは、ただひとつ。
「号ちゃん!」
 向けられるその声の、視線の、微笑みの甘さに怖気が走る。
 違う、違う違う違う!何もかもが違う!
 あの日の俺が焦がれたのは、恋をしたのは。
 涼やかで軽やかで、穏やかで柔らかで。けれどそのくせ触れれば切れそうな鋭さを隠し持っていて。だからこそ手折りたくなるような奴だった。
 こんな甘く蕩ける顔を見せるような奴では断じてない。
 ああ、それなのに。
「……ただいま」
 コイツが望んでいるであろう言葉がぽろりと口から出てしまったのは何故だろう。
 もう離さないと宣う涙声に充足感を感じているのは、何故だろう。

1「知らないきみがそこにいた」#記憶より深く刻まれた愛
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#記憶より深く刻まれた愛 」は管理人が文章修行用に借りてきたお題で号福の掌編の連作を書いていく企画です。
更新ペースはまちまちですがご了承ください。
タグで一括で読めますが、古いものが下になります。
お題配布元:しのぐ式(https://shinogu-shiki.com/odai

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2025年6月25日(水) 18時17分46秒〔13日前〕